LOG IN

d≧0で

by おたかな

この前エイプリルフールだからって、適当な理由で彼のバイト先に顔を出してそのまま一杯飲みに行った。

その日彼はバイト先のご意見番のようなおじさんに「あんなに笑顔が可愛い子は逃しちゃいけない、絶対結婚しろ」と念押しされた、と嬉しそうに話してくれた。


私は、私がここまで来るのに何を乗り越えたのか、それを全く知らない人に今の素直な笑顔を褒められることが一番に嬉しい。

彼もその1人だった。


被写体になってくれと言われて初めてまともに向き合ったあの日、私たちはお互いのことをなんにも知らなかった。

だってなんにも共通点がない。学部も違うし学年もサークルも違う。私が2年のとき、少し新歓期間に話して、LINEを交換しただけ。誰にでも話しかけ、誰からも話しかけられる時期の、誰にでも起こる偶然だと思う。また次の年授業がひとつ同じにはなったものの、話をした訳でもない。新しいカメラを買って気が大きくなっていた彼が、写真映えする細身の体型の顔見知りを見かけて、LINEをしてみたまでだ。私も春だから気が大きくなっていたのだろう、「大して写真映えするわけでもないと思うけど、練習台に使ってください😌」そう答えていた。既に気の大きい彼は「自分が思っているより魅力的だと思いますよ。」そう答えた。


約束の日、彼は既に構図を決めてきていて、スケッチブックを見ながら、あっちを向いてとかこっちを向いてとかレンズの奥を見つめてとか。そんなふうにして何枚か私の写真を撮った。それなのに途中、ピントだけ合わせてファインダーも覗かずに、「もう撮るから適当に止まって」と言われ今までポーズを指定されてきていた私は困惑した。「足は??!え!くっつけるの?開いた方がいいの?え!」などと動揺していると、「もういいから足はじゃあ開いて!!もういい!」とか少し騒いで、笑いあっているうちにシャッターを切られた。それがその日撮った最後の写真だった。


「あの瞬間、かなさんの笑顔に惚れていた。」あとからそう聞いた。私はそんなこと知らなかった。


私は、私がここまで来るのに何を乗り越えたのか、それを全く知らない人に今の素直な笑顔を褒められることが一番に嬉しい。


今、彼は過去に私が何を乗り越えたのかを知っている。嫌われてしまわないか私は時々不安だ。でも彼は、「あの時俺は、佳那さんの笑顔に惚れてしまったのだから、もうしょうがない。その笑顔がなくならない限り俺はどうしようもない。」と言う。

鏡よりも確かに、鮮烈な記憶を、つまり笑顔を、彼は写していた。この写真の中の私を失わない限り、私は一生幸せでいられるらしいことを知った。


これからもこの笑顔で笑いたい。時にもっと素敵な笑顔で笑いたい。欲張りだろうか。笑わせて貰って、挙句「可愛い。」とまで言ってもらって、それでもまた何度でも何度でも、彼とこのやり取りをしたいのだ。


人は生きているだけで偉い。笑えばもっと偉い。何があってもそれは変わらないし、何もなくてもそれは変わらない。

生きているだけで偉い。笑えばもっと偉い。だから褒め合おう、愛し合おう、笑顔を。そしてずっと、100まで生きよう。


彼は私の笑顔の写真を撮り続けてくれている。あの日と同じように、ピントだけ合わせてファインダーは覗かずに、目と目を見合って、楽しい話をして笑い合ったところでシャッターを切ってくれる。現像して白黒反転したレントゲン写真みたいな私を透かし見ながらまた「可愛い」と笑う。


その笑顔が私も好きだ。

だからこのままずっと、100まで。

d≧0で
2018.04.05



おたかな
OTHER SNAPS