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上をご覧下さい。

by おたかな

私がこのあたりに引っ越してきて3年経つ。

私の家は駅から少し離れているから、毎朝同じ道を8分間歩いて駅に行くんだ。

そして毎年この時期、ふじを見る。

途中に酒屋さんがあってね、その看板より上の壁全面にふじが咲くの。
それが私にはすごく綺麗に見えるんだ。

だって"上をご覧下さい。今年もフジが咲きました。"って三角に折ったダンボールで出来た看板が出るんだよ。その店の店主のおじいさんのものらしき癖の強い字で書かれた看板は毎年使い回していてふにゃふにゃだし、風で飛ばないように漬物石みたいな大きい石で造作なく抑えられてる。

そこに人がいると思う。それを見て一人暮らしの私は、ここに住んでよかったとさえ思うの。

毎年ふじと、上をご覧下さいがあったんだ。

でも今年はふじしかなかった。

私が今年最初にふじに気付いたのは4月末の金曜日の夕方で、それから私はすごくそわそわした。あの看板はまだかなーって。
5月に入って満開に近付いた頃になって、今年も綺麗だから写真を撮りたいなと思った。でもまだきっと満開じゃないんだろうな。あの看板が出るまで開花に気付かない振りをしよう。お店の人が満開だから見てと言ったら、今年初めて気付いた振りをしながら写真を撮るぞ。って思ってた。

でもついに看板は出なかった。

雨だって風だってGWだって関係なく外に晒されてたあのダンボールの看板が、今年は出なかった。お店のシャッターさえ開かない。

いや、お店のシャッターが開かなくてもいいからあの看板だけは出て欲しい。

今年もふじは咲いているから、どうかいなくならないで。死なないで。

今年のふじはもう終わる。
絶対忘れたくなくて、散り際だけど写真を撮った。

どうして学校の最寄りにしなかったの?
どうしてわざわざ駅から離れたところにしたの?って聞かれると私はいつも「通学したかったから。」って答えてしまって何も伝わらないのだけど、少しでいいから小学生みたいな通学路が欲しかったってことだと思う。

誰かに何かに見守られながら毎日通る通学路。

少し外を歩くから、それを誰か見守って。
そのとき私も何かを見守るから。

来年度、多分私も大学を卒業して、この街からいなくなる。私の通学路も終わる。

そのときふじは残っているかな。

上をご覧下さい。って言う人がまたいつか現れるかな。誰かの一人暮らしをささやかに支える誰かがまたいつか現れるかな。
そうなるといいなと思う。

いまは寂しい。
いっそ私がずっとこの街に住み続けようか。
私がずっと看板を出し続けようか。
上をご覧下さい。って言い続けようか。

移り気な私にはそんなことをできる保証がないから、せめてブログに書かせてほしい。

私の街にはふじが咲く。

上をご覧下さい。
2017.5.07



おたかな
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